Tonkabeans

トンカビーンズ

植物DATA
学名・Dipteryx odorata (Aubl.) Forsyth f.
・syn. Coumarouna odorata Aubl.
科名マメ科
別名トンカ豆、トンキンビーンズ / beans
トンカ、クマル、サラピア、ブラジリアンチーク / wood
原産地中南米
主産地ベネズエラ、ブラジルなど
使用部位種子
精油DATA
採油部位乾燥種子
採油法溶剤抽出 / Tonkabeans abs.
採油率種子からのレジノイド収率は29~46%、アブソリュート収率は10~15%(レジノイドからアブソリュートを抽出する)
性状明るい琥珀色~栗色、半固体または結晶
主な成分クマリン、メリロト酸エチル、メリロト酸メチル、ジヒドロクマリン、クマリン酸、5-ヒドロキシメチルフルフラール、サリチル酸
香り甘くて柔らかいパウダリー、バルサミック
バニラ、アーモンド、干し草のようなニュアンスもある
揮発性ベースノート
香り強度強い

トンカビーンズの香りはアーモンドやバニラを思わせる甘い香りで、フゼア調やグルマン調の香水には欠かせません。

フランス料理などでは、デザートやスイーツに複雑な風味をつけるために使われます。

また、香りの良い種子だけではなく、トンカの木自体も丈夫な木材として需要があります。

香料 | アロマテラピー | ハーブ | 料理 | 園芸

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Fragrance 香料

香りの
性質
パウダリー、バルサミック、アニマリック、バニラ、アーモンド、干し草、タバコなど多様な表情を持つ
主な
使用法
フゼア、アンバー、グルマン、ウッディなどの香調にブレンドする
使用量少量を効果的に使う
注意クマリンには最大使用量の制限あり

トンカビーンズアブソリュートの原料には、乾燥種子を使用します。

生の種子にはあまり香りがなく、乾燥させることによって特有の香り成分「クマリン」が生成されるためです。


アブソリュートは半固体状なので、香料として扱いやすくするために、アルコール希釈して液体状にしたものがよく市販されています。


アブソリュートの他に、種子をアルコールに浸して成分を浸出させた「トンカビーンズチンクチャー」もあります。

チンクチャーは、アブソリュートに比べて穏やかな香りです。

トンカビーンズ

香りの成り立ち

トンカビーンズの主香成分はクマリンです。

乾燥種子には1~10%、アブソリュートには20~90%のクマリンが含まれています。

クマリンの含有量にはかなり幅があり、多いものほどアーモンドのような甘い香りが強くなります。

  • クマリン
    甘くて温かいパウダリー、バルサミック。
    スパイシー、フローラル、カラメル、干し草などのニュアンスもあります。
    桜の葉のほか、チェリー、ストロベリー、アプリコットなどのフルーツにも含まれている成分です。
    • スイートグラスリアトリスアブソリュートヘイアブソリュートラベンダーアブソリュートカッシアなどにも含まれています。

その他、以下のような微量成分がトンカビーンズの香りに影響を与えています。

  • ジヒドロクマリン
    甘いハーバル、バルサミック。
    シナモンやココナッツなどのニュアンスもあります。
    酸化するとクマリンになります。
  • 5-ヒドロキシメチルフルフラール
    カラメル、バター、シナモン、ドライフルーツのような香り。

ブレンドテクニック

  • トンカビーンズやクマリンは、フゼアタイプに必須です。
    • ラベンダーシトラスと組み合わせて使用します。
  • ウッディ調の香りにブレンドすると、温かみやまろやかさをより一層高めます。
  • バニラクローブシナモンなど濃厚なスパイスと組み合わせて、美味しそうなグルマンタイプの香りを作ります。
  • タバコの香り付けによく使われてきたため、タバコをテーマにしたフレグランスなどにもブレンドされることが多いです。
トンカの葉・果実の植物画
‘Coumarouna odorata’ 1775 by Jean Baptiste Christophe Fusée Aublet

使用されている香水

  • Fougere Royale/フジェール ロワイヤル(Houbigant、1882)
    合成香料(クマリン)を使用した世界初の香水として知られています。
    ラベンダー、ベルガモット、ゼラニウム、オークモス、トンカビーンズ(クマリン)という構成の「フゼアタイプ」の基礎を築きました。
    現代用に調香し直したバージョンが今も販売されています。
  • Vetiver Tonka/ベチバー トンカ(Hermès、2004)
    ワイルドでアーシーなベチバーの香りに、キャラメルやプラリネのニュアンスを持つトンカビーンズ、ヘーゼルナッツなどをブレンドした、やわらかい温もりを感じさせるオードトワレ。
  • Tonka Imperiale/トンカ アンペリアル(Guerlain、2010)
    トンカビーンズを主役に据え、アーモンド、ハニー、タバコなどを合わせることでトンカビーンズが持つ複雑な表情を強調しています。
    トップノートにはローズマリーの香りも。
  • Myrrh & Tonka/ミルラ & トンカ(Jo Malone London、2016)
    ナミビア産ミルラとトンカビーンズの、オリエンタルで深みのあるコンビネーション。
    トップノートにはアロマティックなラベンダーが配置されています。
  • Angels’ Share/エンジェルズ シェア(Kilian、2020)
    熟成時にオーク樽から蒸発するコニャックを表現した香り。
    トンカビーンズ、シナモン、バニラなどのグルマンノートが陶酔感をより深めています。

その他トンカビーンズを含む香水

「Jicky/ジッキー(Guerlain、1889)」
「π/パイ(Givenchy、1998)」
「Tonka 25/トンカ 25(Le Labo、2018)」
「Tonkade/トンカード(Laboratorio Olfattivo、2020)」

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香料としての歴史と活用法

1820年、ドイツのアウグスト・フォーゲルが、トンカビーンズからクマリンを単離しました。

しかし彼はこの化合物を安息香酸と誤認し、その後フランスのガストン・ギブールが新化合物として「クマリン」と命名しました。

「Coumarin/クマリン」というのは、トンカの別名「Coumarou/クマル」から取った名前です。


そして1868年、イギリスのウィリアム・ヘンリー・パーキンがクマリンの合成に成功します。

この新たな化合物は調香師たちの関心を集め、1882年のウビガン「フジェール ロワイヤル」、1889年のゲラン「ジッキー」などの名香が誕生するきっかけとなりました。


トンカビーンズやクマリンの香りは、現代の香水には欠かせないものになっています。

しかしクマリンには使用量の規制があるため、クマリンにごく近いものからココナッツのようなニュアンスがあるものまで、いろいろなタイプのクマリン代替香料も開発されています。

クマリン
クマリン
  • トンカビーンズやクマリンは、タバコの香り付けに広く使用されてきました。
    現在、国によっては使用禁止になっていますが、認可されている国では今でも香料として使用されています。
  • パウダー状にすれば、ポプリやサシェの材料にもなります。
    • シナモンクローブナツメグなどのスパイス、柑橘果皮ラベンダーオリスパウダーなどをブレンドするとよいです。

インセンス

使用部位種子
香りバニラや干し草を思わせる甘い香り
主な特徴気分を高揚させる、陶酔させる
  • インセンスとして焚くと、高揚感や温もりのある空間を作ることができます。
  • バニラと一緒に使うと、よりうっとりさせる香りに
    どちらも挽くか、代わりにバニラエッセンスを使ってもOK。
  • そのほか、サフランエキスアンジェリカラベンダーオリススパイスなどをブレンドしても良いし、ローズオットーミツロウを加えても◎。

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Herb therapy ハーブセラピー

ハーブとしての歴史と伝承

原産地(南米北部)では、トンカビーンズを薬として使用していました。

心臓のケア、食欲を出すため、麻酔のほか、まじないやお守りなど、さまざまな目的で使っていたことが知られています。

虫よけや空気浄化のために使われることもあります。

トンカの枝の植物画
‘Dipteryse odorata, Will’ 18世紀 by José Joaquim Freire

Cooking 料理

トンカビーンズはクマリンを含むため、食品への使用は多くの国で規制対象となっています。

しかしクマリンを含む食品素材はほかにも多くあり(シナモン、フルーツなど)、香り付け程度の微量で影響を引き起こすものではないとして、この規制には賛否が分かれています。

相性のよい食材

トンカビーンズには、バニラ、アーモンド、シナモンなどがミックスされた複雑な風味があります。

ミルクバニラカカオと特に相性が良く、ココナッツベリーなどのフルーツともよく合うため、すりおろしてデザートやスイーツに加えることがもっとも多いです。

その他スープやソース、シーフード料理に使ったり、ドリンクやカクテルに香りをつけたり、食材の臭み消しに使ったりすることもあります。

トンカビーンズと擦り下ろしたパウダー

世界の料理

  • とくにフランス料理に使われることが多いです。
    • クリーム、カスタード、キャラメル、チョコレートに混ぜることがよくあります。
    • たとえばクレームブリュレアイスクリームトリュフチョコなど。
  • ドイツやオランダのクリスマス菓子「Stollen/シュトレン」の香り付けにも使われます。
  • 南米北部のミックススパイスにブレンドされることもあります。

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Gardening 園芸

種類半落葉樹
背丈20~30m
環境水はけが良く肥沃な土壌

姿かたち

トンカの枝・果実の植物画
‘Coumarou odorant’ 1829 by Descourtilz, J. Theodore.
  • 高さ25m前後、幹の直径は1.2mにもなる高木です。
  • 樹皮はなめらかな質感で、白っぽい灰色。
    内側の木部は赤茶色。
  • 大きな葉は艶のあるダークグリーンで、革のような質感をしています。
  • 花の色は、白っぽいピンク~薄い紫色。
  • 卵型の果実はずっしりと重たく、中には核(内果皮)に包まれた種子が1つ入っています
    この種子がトンカビーン(ズ)です。
  • トンカビーンズのサイズは、長さ3cmくらい。
    • 乾燥すると黒くなり、縮んでシワが寄ります。
    • 取り出したばかりの時はあまり香りがしませんが、乾燥させることで成分が変化し、香りが強くなります。
    • 表面に現れる白い結晶がクマリンです。

栽培と収穫

  • 南米北部のオリノコ川流域(とくにカウラ川周辺)、アマゾン地域の森林に自生しています。
    国でいうとベネズエラ、ブラジル、ガイアナ。
  • 気候の影響を受けやすく、収穫量は年によって差があります。
  • 木から自然に落下した、熟した果実を収穫します。
  • 石製の道具を使って外側の殻を剥がし、果肉から種子を取り出します。
  • 種子は日陰でしばらく乾燥させ、白い結晶(クマリン)で覆われたものを抽出に使用します。
半分に割ったトンカの果実
トンカの果実の断面

様々な用途

  • トンカの木は、木材としての需要も高いです。
    硬くて強度があって燃えにくく、耐久性・耐火性ともにすぐれています。
    • 「世界一硬い木材」として知られるガイアックウッドの代用としても使われています。
    • 木材の色がチークと似ているため、「ブラジリアンチーク」という名前でも呼ばれます。
      (植物としての関連はない)
トンカの木
トンカの木

名前の由来・伝説

  • 「Tonka/トンカ」「Coumarou/クマル」という名前は、この木の呼び名として原産地(南米)で古くから使われていました。
  • 「Tonkabeans/トンカビーンズ」というのは、トンカの種子という意味。
  • 古い属名Coumarounaは、この植物の原産地での呼び名「クマル」に由来しています。
  • 香り成分「Coumarin/クマリン」の名前も、「クマル」が語源です。
    この成分がクマルの種子から抽出されたため。

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