Labdanum
ラブダナム




学名 | ・Cistus ladanifer L. ・Cistus ladaniferus Stokes |
科名 | ハンニチバナ科 |
別名 | シスタス、システ、シスト、ロックローズ |
原産地 | 地中海地域 |
主産地 | スペイン、ポルトガル、フランス |
使用部位 | 葉、小枝、樹脂 |
採油部位 | 乾燥葉・小枝 / Cistus oil 樹脂 / Labdanum oil |
採油法 | 水蒸気蒸留 |
採油率 | 0.13% / Cistus 1~2% / Labdanum |
性状 | 黄金~茶色、やや粘りけがある |
主な成分 | α-ピネン、カンフェン、ヘキセノール、ベンズアルデヒド、オイゲノール、フェンコン、2,2,6-トリメチルシクロヘキサノン、酢酸ボルニル、ビリジフロロール / Cistus α-ピネン、カンフェン、p-シメン、フェンコン、ボルネオ―ル、α-テルピネオール、2,2,6-トリメチルシクロヘキサノン、酢酸ボルニル、ビリジフロロール / Labdanum |
香り | アンバー、バルサミック、レザーなどのニュアンスがある温かい香り |
揮発性 | ミドル~ベース |
香り強度 | 非常に強い |
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Fragrance 香料
香りの 性質 | アンバー、バルサミック、レザー、アニマリック、スパイシー、ハーバルなどさまざまなニュアンスがあり、製法によって香りが異なる |
主な 使用法 | アンバー、シプレ、オリエンタルなどの構成要素 |
使用量 | 香りが強いため少量を使う |
注意 | ─ |
「シスタス」という植物(Cistus ladaniferなど)から採れる樹脂のことを、「ラブダナム」(または「ラブダナムガム」)といいます。
ラブダナムを採取するには、主に以下のような方法があります。
- シスタスの葉・小枝を傷つけて、浸出した樹脂を採取する
- シスタスの葉・小枝を熱湯で茹でて、水面に浮かんだ樹脂を採取する
「シスタス」や「ラブダナム」という名がつく香料は、いろいろな種類があります。
原料と製造方法によって、以下のように分類されます。
シスタス/ラブダナム香料
シスタス(葉・小枝)から製造される香料
- シスタスオイル
葉・小枝を水蒸気蒸留。 - シスタスコンクリート
葉・小枝を溶剤抽出。 - シスタスアブソリュート
コンクリートをアルコール処理。
ラブダナム(樹脂)から製造される香料
- ラブダナムオイル
樹脂を水蒸気蒸留。 - ラブダナムレジノイド
樹脂を溶剤抽出。 - ラブダナムアブソリュート
レジノイドをアルコール処理。

オイル(精油)とアブソリュートを比べると、オイルのほうが高価で香りも強いです。
オイル以外の香料(アブソリュート・レジノイド・コンクリート)は、オイルよりも重たいベースノートの香りで、アンバー、バルサミックなニュアンスがより強くなります。
香りの成り立ち
シスタス/ラブダナム精油は非常に多くの成分で構成されており、そのほとんどが微量成分です。
原料によっても比率は変わってきますが、比較的多めに含まれているものとしては以下のようなフレッシュな成分が挙げられます。
- α-ピネン
フレッシュで爽やかな針葉樹の香り。
バルサミック、ウッディ、ハーバルなニュアンスがあります。- マスティック、マートル、ジュニパー、サイプレス、パインなどにも含まれています。
- カンフェン
カンファー様の刺激を感じる強い香り。- ファー、バレリアン、ローズマリー、パイン、セージなどにも含まれています。
- フェンコン
カンファー様のツンとくる刺激と、甘さと温かさを感じる香り。- ラベンダー・フレンチ、フェンネル、ツージャ、パインなどにも含まれています。
- 酢酸ボルニル
フレッシュなパイン様の香りで、少しメディカル感もあります。- イニュラ、バレリアン、ファー、タンジー、ローズマリーなどにも含まれています。
香りに大きな影響を及ぼす成分としては、以下のようなものが挙げられます。
- ラブダノール
ラブダナム様のバルサミックでフルーティな甘い香り。
チェリーやプルーンなどのフルーティフレーバーを作るときにも使用されます。 - 2,2,6-トリメチルシクロヘキサノン
ラブダナムやシスタス様のウッディ、スパイシー、ハニー。
そのほかシスタス精油には以下のような成分も含まれており、より複雑で表情豊かな香りになっています。
- ヘキセノール(リーフアルコール)
青葉のフレッシュなグリーンノートの香りで、拡散性に優れています。- バイオレットリーフアブソリュート、マスタードにも含まれています。
- ベンズアルデヒド
アーモンド様の薬っぽい甘さと清潔感を感じる香り。- アーモンド・ビター、カッシア、シナモンにも含まれています。
- オイゲノール
クローブ・カーネーション様の、温かいウッディ、スパイシー。- クローブ、シナモン、カーネーションアブソリュート、ローレル、ジャスミンアブソリュートなどにも含まれています。
相性のよい香り
- さまざまな香調の構成成分として使われます。
- アンバー調には、バニラとブレンド。
- シプレ調には、ベルガモット、ローズ(またはジャスミン)、オークモス、パチュリとブレンド。
- オリエンタル調には、ベルガモット、ローズ、バニラ、パチュリ(またはベチバー)とブレンド。

- マスティック、ジュニパー、サイプレス、パインなど、針葉樹っぽいフレッシュノートを持つ精油とは相性抜群です。
- シダーウッド・バージニア、サンダルウッド、ベチバーなど、重ためのウッディノートともよく合います。
- シトラスノートとは何でもよく調和しますが、とくにベルガモット、レモンが◎。
- ラベンダー、クラリセージ、ネロリなど、リナロールを多く含み、ほんのり甘いフローラル感のある精油とはなじみが良いです。
- バニラ、トンカビーンズ、イリスなどパウダリーな香りと合わせるとうっとりする香りに。
ブレンドテクニック
- 植物から採れる香料でありながらアンバーグリス様の香りを持つため、非常に重要な素材としてさまざまな香調に使用されています。
- とくにアンバー調の香りを作りたいときには欠かせません。
この香調は、ラブダナムとバニリン/バニラの組み合わせが核となります。 - 華やかなシプレ調やオリエンタル調にもよくブレンドされます。
この2つの香調には、ムスク、シベット、カストリウムなどアニマリックな素材といっしょに使われることも多いです。 - アロマティックな香りとも相性が良いため、フゼア調にブレンドしてもきれいになじみます。
- 華やかなフローラルノートやブーケ調の香りに少し足すと、ゴージャス感がより引き立ちます。
- いずれの場合も、香りが強いため少しずつ慎重に使います。
- 拡散力があり、香りが強くて豊かなのはシスタスオイル(精油)。
アロマティック、ハーバル感もあり、しだいにバルサミックになっていく複雑な香りの変化を楽しめます。 - 一方で、アンバー様の香りがより強く、保留剤としても優れているのはラブダナムレジノイドやアブソリュート。
使用されている香水
- Melograno/ザクロ(Santa Maria Novella、1965)
ザクロの香りに、ラブダナム、ベルガモット、オークモス、パチュリを合わせたシプレタイプのオーデコロン。
ほんのりパウダリーでエレガントな香り。 - Ambre Sultan/アンブルスュルタン(Serge Lutens、1993)
「アンバーの王」という名前の香水で、ラブダナムとバニラが構成の核になっています。
濃厚な樹脂&アンバーノートにスパイシーなハーブをたっぷりブレンドすることで、複雑でユニークなハーモニーが生まれています。 - Labdanum 18/ラブダナム18(Le Labo、2006)
ラブダナム+バニラのアンバーノートに、ムスク、シベット、カストリウムなどのアニマリックノートを合わせたオリエンタルフレグランス。 - Violet Shot/バイオレット ショット(Olfactive Studio、2019)
スペイン産ラブダナム、マダガスカル産バニラ、インドネシア産パチュリという豊かで官能的なベースノートに、バイオレットリーフの鮮やかでウォータリーなグリーンノートがミックスされています。 - Labdanum Dusk/ラブダナムダスク(Molton Brown、2021)
ラブダナムとアガーウッドのコンビネーションが作る、深みのあるオリエンタルウッディ。
サフラン、レザー、シダーウッドなどの温かい香りが全体を支えています。
その他ラブダナムを含む香水
「Attaquer le Soleil Marquis de Sade/アタッキィ ル ソレイユ マルキ ド サド(Etat Libre d’Orange、2016)」
「Andalusian Soul/アンダルシアン ソウル(The Merchant of Venice、2018)」
「Le Lion/ル リオン(Chanel、2020)」
「Orchid Leather/オーキッド レザー(Van Cleef & Arpels、2021)」
「Malón/マロン(Fueguia 1833、2022)」
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香料としての歴史と活用法
ラブダナムは古代から人気のあった香料です。
聖書にも登場しており、以前は「ミルラ」と訳されていたこともありましたが、現在は「ラブダナム」として正確に認知されています。

ラブダナムはいつの時代も、インセンス(お香)の材料として重要視されてきました。
古代の「シプレ系」は、ラブダナム、カラムス、スチラックスなどをミックスして作られた香りで、香粉や練り香のかたちで使われていました。
16~18世紀頃のイギリスやフランスでは、香水やポプリの材料としてもラブダナムが広く使われるようになりました。
ラブダナムの収穫方法といえば、昔はロープやヤギを使っていたことが知られています。
シスタスがたくさん生育している場所にヤギを放し、その枝葉を食べたヤギの毛についたラブダナム樹脂をていねいに剥がすという方法です。
この時ヤギの毛を梳かすために、木製の櫛のような道具が使われました。

ラブダナムを採集するための道具
現在は葉や小枝を煮て水面に浮いた樹脂を集めたり、樹脂を含む植物を直接抽出にかけたりして香料の製造が行われています。
- 16世紀イギリスでは、ラブダナムをパウダー状にして香粉に混ぜていました。
- これを小さな絹の袋に入れて持ち歩いたり、衣類の香り付けに使ったり、ポプリの材料にしたりしていました。
- 17~18世紀フランスでは、ラブダナムをペーストやオイルなどさまざまな形にして利用していました。
- ペースト状にしたものは、ほかの香料と混ぜ合わせて丸め、穴を開けてひもを通し、ネックレスにして身につけていました。
- オイルは、オードトワレや練香の成分として使用されました。
とくにカラムスやサンダルウッド、シナモン、クローブ、シベット、ムスクなどとよく合わせられました。
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Aromatherapy アロマテラピー
作用 | 収れん、止血、抗炎症、皮膚再生サポート、神経バランス調整、高揚 |
適用 | スキンケア、傷、やけど、呼吸器系の不調、瞑想 |
注意 | ─ |
シスタス/ラブダナム精油は、それほど頻繁ではありませんがアロマテラピーでも使われます。
とくにスキンケアの目的で利用されることが多いです。

精神のために役立てる
- 緊張して硬くなった心身をじっくりと温めてほぐし、落ち着いてリラックスした精神状態へと導いてくれます。
- 冷え切った心を温めるには、オレンジ・スイート、ゼラニウム、ジャスミンをブレンド。
- 幸福感と高揚感をもたらすには、ベルガモット、イランイラン、ローズ(またはネロリ)をブレンド。
- 深い静けさの中で自分の内面と向き合いたいときは、サイプレス、シダーウッド・バージニア、フランキンセンスをブレンド。
- インスピレーションや感受性を高めたいときは、アンジェリカ、クラリセージ、ローズマリーをブレンド。
身体のために役立てる
- 呼吸器系の炎症や不調には、ベンゾインと、ペパーミントかユーカリをブレンド。
美容のために役立てる
- 収れん作用に優れているため、肌をキュッと引き締めるのに役立ちます。
化粧水やクリームに混ぜるとよいです。- 脂性肌には、ラベンダー、ゼラニウムをブレンド。
- 老化肌には、ネロリ、パチュリをブレンド。
- 傷、湿疹、ひび、あかぎれなどのケアにも使えます。
カモミール、ラベンダー、ベンゾインなどをブレンドするとよいです。 - アフターシェーブには、サンダルウッド、フランキンセンスをブレンド。

精油を抽出する際に得られる芳香蒸留水(フローラルウォーター)も、精油と同じように優れた価値があります。
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Herb therapy ハーブセラピー
ハーブとしての歴史と伝承
ラブダナムの樹脂は、香りが良いだけではなく薬としても長いあいだ評価されてきました。
たとえばクレタ文明では、肌や髪に栄養を与えて美しく保つためのスキンケア、ヘアケア、また婦人科系の不調にも使われていました。
古代ローマでは、眠りのサポート、胃腸や内臓のケア、熱、腫れ物などに使用されていました。
目的に合わせて湿布にしたり、塩を加えたり、ワインに混ぜたり、耳の痛みをとるためにローズオイルと混ぜて耳に垂らしたりもしていたそうです。
そのほか呼吸器や消化器系の不調、リウマチ、炎症、神経バランスの調整など、ラブダナムの作用は広範囲にわたります。

Cooking 料理
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Gardening 園芸
種類 | 多年生の常緑低灌木 |
背丈 | 1~3m |
環境 | 日当たりが良く、乾燥した土壌 |
STORY
古代ローマの博物学者プリニウスは、著書『博物誌』の中でラブダナムについて詳しく記述しています。
当時シスタスは「レダ」「レドン」などと呼ばれており、その植物から採れるラブダナム樹脂は「ラダヌム」「レダヌム」などと呼ばれていました。
ラブダナムを生産していた土地は主にアラビアとキプロス島で、その収穫方法は2種類ありました。
- シスタスの植物表面についたラブダナム樹脂を、縄または羊毛を巻き付けた弦を使って擦り取る。
- シスタスを食べたヤギのあごひげや毛にくっついたラブダナム樹脂を、毛を梳いて採取する。
ヤギはシスタスの若枝を食べるのが大好きで、そのとき滴った樹液はヤギの毛の上でホコリと一緒に固まります。
そのため②の方法で採ったラブダナムには、土やヤギの毛が混じっていたそうです。

品質が良いものは、香りが非常に強く、油分が多くて柔らかく(堅くても触れるとすぐに柔らかくなり)、火をつけると明るい炎を上げて燃えるはずだとプリニウスは言っています。
そして混ぜものがされている場合(マートルの実がよく混ぜられていたそう)、火の中でパチパチ音を立てるからすぐわかるということです。
姿かたち

- 高さ1~3mほどの小型の灌木です。
- 5枚の花弁を持つ白い花を咲かせます。
花弁の付け根のほうに赤い斑点があるのが特徴です。 - 細い葉の表面は、光沢のある濃い緑色。
裏面は白っぽくて軟毛に覆われています。 - 葉や茎、若い小枝は粘りけのある物質で覆われ、ベタベタしています。
- この浸出物が「ラブダナム(ガム)」です。
春~夏にかけて分泌し、厳しい暑さと乾燥から身を守るために植物全体を覆います。
栽培と収穫
- 高温多湿には弱く、乾燥した砂質の土壌でよく育ちます。
- 地中海沿岸の丘陵地帯に自生しています。
広い範囲で見られますが、とくに多いのは以下の地域。- スペインのアンダルシア州「Andévalo/アンデバロ」地域。
この地域の都市「Puebla de Guzmán/プエブラ・デ・グスマン」。 - ポルトガルの「Alentejo/アレンテージョ」地方と「Algarve/アルガルヴェ」地方。
- フランスの「Esterel/エステレル」山脈。
- スペインのアンダルシア州「Andévalo/アンデバロ」地域。
- ラブダナム樹脂は、手作業で採集します。
または夜明けから正午の間に、鎌を使って枝を集め、工場へ出荷します。

名前の由来・伝説
- ラブダナムは、「Ladanum/ラダナム」「Ladanon/ラダノン」「Ladan/ラダン」などと呼ばれることもあります。
- 学名「ladanifer」「ladaniferus」は、ラブダナムを生産するという意味。
- 「Rockrose/ロックローズ」という名前は、石灰岩質の土地によく育つことと、ローズのような華やかな花を咲かせることからつけられました。
近縁種・間違いやすい品種
「シスタス」という名で呼ばれるCistus属の植物には多くの種類があり、そのうちの数種類が芳香樹脂「ラブダナム」を産出します。
ラブダナムが採れる主な種は、Cistus ladanifer、C. ladaniferus、C. creticusなど。

また、シスタスの花色は、白かピンク系に分かれます。
- 白い花を咲かせる種
Cistus ladanifer、C. ladaniferusなど - ピンク系の花を咲かせる種
Cistus creticusなど
↓Cistus creticus


シスタスは「ロックローズ」という別名で呼ばれることがありますが、この名前はハンニチバナ科(Cistus属を含む)の植物全般に対して使われています。
たとえばフラワーレメディ(花のエネルギーを利用する植物療法)の1つに「ロックローズ」というのがあります。
これはハンニチバナ科Helianthemum属の植物のことであり、シスタスやラブダナムのことではありません。

Helianthemum nummularium
Common rockrose/コモンロックローズ
学名 | Helianthemum nummularium (L.) Mill. |
科名 | ハンニチバナ科 |
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