Jonquil

ジョンキル(黄水仙)

植物DATA
学名Narcissus jonquilla L.
科名ヒガンバナ科
別名
原産地中央ヨーロッパ
主産地グラース、モロッコ
精油DATA
採油部位
採油法溶剤抽出 / Jonquil abs.
採油率花からのコンクリート収率は0.2~0.5%、コンクリートからのアブソリュート収率は40~55%
性状ダークブラウン~オレンジ色、粘りけがある
主な成分t-β-オシメン、安息香酸メチル、リナロール、ケイ皮酸メチル、安息香酸ベンジル、酢酸ベンジル、インドール、アンスラニル酸メチル
香りハチミツのような甘さを感じる重厚なフローラル
グリーン、パウダリー、アニマリックなど多様なニュアンスがある
揮発性ミドル~ベースノート
香り強度強い

ジョンキルの甘く深く神々しい香りは、これまで数々の伝説的な香水に配合されてきました。

なかなか手に入らない貴重な香料ではありますが、その香りを嗅ぐために庭で育ててみるのもオススメ!

あざやかな黄色い花は小さな星のようでかわいらしく、見ていて心が和みます。

ジョンキルで飾ったポスター
1896 by Louis Rhead

香料 | アロマテラピー | ハーブ | 料理 | 園芸

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Fragrance 香料

香りの
性質
様々なアンダートーンを持つ多面的なフローラル
主な
使用法
フローラルやオリエンタルノートに、重厚で多彩なニュアンスを与える
使用量他のフローラル香料とあわせて少量を使用する
注意インドールを含むため、紫外線の影響で赤褐色に変色することがある

ジョンキルアブソリュートは、以前は温浸法や冷浸法でもつくられていましたが、現在は溶剤抽出法によって製造されています。

ジョンキルは「ナルシス(水仙)」の1種ですが、ジョンキルとナルシスは香りが異なるため、香料としては別々に区別されています。

ジョンキルもナルシスもグリーンフローラルの香調を持っていますが、ジョンキルのほうがフローラルノートが強く、且つハチミツのような深い甘さを含んでいるのが特徴です。

香りの成り立ち

ジョンキルアブソリュートの濃厚な香りは、さまざまなフローラル成分で構成されています。

  • 安息香酸メチル
    少し薬っぽい甘さ、ドライフルーティーを感じるフローラル。
    チュベローズ、イランイランの香りを再生するときに使う成分。
    • チュベローズイランイランジャスミンなどに含まれています。
  • リナロール
    フレッシュでパウダリーで、おだやかなフローラル。
    • ローズウッドハニーサックルマグノリアネロリラベンダーベルガモットクラリセージなどに含まれています。
  • ケイ皮酸メチル
    スイート、フルーティー、バルサミック。
    主にオリエンタル系香料に使用されます。
    • ナルシスボロニアなどのアブソリュートに含まれる成分。
  • 安息香酸ベンジル
    甘いバルサミックフローラル。ハーバルなニュアンスもあります。
    • バルサム・ペルー/トルーベンゾインジャスミンイランイランカーネーションナルシスチュベローズヒヤシンスなど、バルサムや花のアブソリュートに多く含まれます。
  • 酢酸ベンジル
    濃厚なフローラル、フレッシュフルーティー。
    ジャスミン系香料には不可欠な成分。
    • ジャスミンイランイランナルシスヒヤシンスなどに含まれています。

そしてアブソリュートに少量含まれる特徴的な成分が、ジョンキルの香りに大きな影響を与えています。

  • インドール
    高濃度では糞臭で、希釈するとジャスミン様フローラルな芳香になる成分。
    • ジャスミンハニーサックルナルシスオレンジフラワーなどのアブソリュートに含まれています。
  • アンスラニル酸メチル
    グレープのようなフルーティな香り。グレープ果汁にも存在している成分です。
    フローラル系香料に使用されるほか、グレープ、ベリー、ワインフレーバーにも使用されます。
    • オレンジフラワーアブソリュートなどに含まれています。
ジョンキルの絵画
“The Jonquils” 1904 by Childe Hassam

相性のよい香り

  • フローラル精油やアブソリュートとはよく調和しますが、なかでもジャスミンオレンジフラワーと相性抜群!
  • ナルシスチュベローズヒヤシンスとは香調に似たところがあるため、ブレンドするとよくなじみ、お互いの香りに深みや豊かさを与えます。
  • ミモザとは、ハニー、パウダリーのニュアンスで同調し、うまく重なり合います。
  • バイオレットリーフとの組みあわせは、心地よいグリーンなハーモニーをつくります。
  • ラベンダークラリセージなどカンファー臭の少ないハーバル香をあわせると、重厚な香りに生き生きとした広がりが出てきます。

ブレンドテクニック

  • 主にフローラルやオリエンタルノートに、重厚で高級な印象を与えるために使用されます。
  • 他のさまざまなフローラル香料と組みあわせることで、ゴージャスな花束の香りを表現します。
  • 加える量はわずかでも効果は絶大!
    グリーン、パウダリー、フルーティー、ハニー、アニマリックなど多様なニュアンスのあるフローラルが、ブレンド全体に立体的で豊かな表情を与えてくれます。
  • 「ジョンキル+ネロリ+ジャスミン+アニマルノート」は、ジョンキルがテーマのクラシックな香水で使用されていた組みあわせ。

合成香料

  • ジョンキルの香りを合成香料によって再現するときは、ナルシスの場合と同様に、ジャスミン・ローズ・オレンジフラワーの香調で基本のフローラルノートを組み立てます。
  • そこにグリーン・ハニーなニュアンスを加えるために、ヒヤシンス調の香料をブレンドします。
    たとえば以下のようなものがあります。
    • フェニル酢酸フェニルエチル
      重く甘いハニー、ヒヤシンス様。
      ジョンキル香再生のポイントになる重要な成分。
    • フェニルアセトアルデヒド
      スイート、グリーン、ヒヤシンス様。
      グリーンフローラルタイプの香料には欠かせない成分です。
    • シンナミックアルコール
      バルサミック、ヒヤシンス様。
  • ジョンキルが持つかすかなハーバルノートを表現するため、ニュアンサーとしてごく微量のクラリセージカモミールを足すことがあります。
  • 保留剤として加えられるのは、ベンゾインラブダナムバルサム・トルーなど。
    合成香料では、バニリンや合成ムスク、合成アンバーグリスなど。

使用されている香水

  • Je Reviens/ジュ・ルヴィアン(Worth、1932)
    ジョンキルやナルシスのアブソリュートが含まれているフローラルブーケ。
  • Vol de Nuit/ヴォル・ドゥ・ニュイ[夜間飛行](Guerlain、1933)
    ジョンキルやジャスミンなどのフローラル、スパイス、ウッディがブレンドされたオリエンタルベースにアルデヒドなどが加わり、空へ飛び立つ上昇感を感じることができる香り。
  • Jonquille de Nuit/ジョンキル・ドゥ・ニュイ(Tom Ford、2012)
    トップノートには、バイオレットリーフ、シクラメン、アンジェリカシードなどが使われています。
    そしてミモザが、ジョンキルの特徴でもあるハニーノートを強調しています。
  • Velvet pure/ベルベットピュア(Dolce&Gabbana、2016)
    ジョンキルアブソリュートが入ったフローラルグリーンの香水。
    ガルバナム、フィグリーフなどのグリーンなトップノートと、ベチバーのアーシーなベースノート。
ジョンキルのリトグラフ
“Jonquil” 1896 by Maurice Pillard Verneuil

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香料としての歴史と活用法

  • 18世紀フランスでジョンキルはとても高価でしたが、香水や芳香水、オイル、パウダーなどにすてきな香りをつけるとっておきの香料として人気がありました。
  • マリー・アントワネットは、髪に使うマッサージオイルやポマードに使っていました。
    マリー・アントワネットのためのジョンキルレシピは、「ジョンキル、バイオレット、ヒヤシンス、カーネーション、ムスク」という組みあわせ。
  • ジョンキルのポプリは、ほかにも春の花をたくさん合わせてつくるのがオススメ!
    たとえばライラック、リリーオブザバレー、バイオレット、ヒヤシンスなど。
    アクセントには、砕いたローレルやユーカリの葉、シナモンやコリアンダーなどのスパイスが◎。
ウォルター・クレインの絵
“Jonquils and English Leaves” by Walter Crane
ウォルター・クレインの絵
“Jonquil Masquerade” by Walter Crane

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Gardening 園芸

種類多年生の球根植物
背丈30~40cm
環境日あたりのよい場所、水はけのよい土

STORY

の訪れを告げる黄金の花「ジョンキル」は、その気品ある姿にふさわしい甘く豊かで繊細な香りを持っています。

ジョンキルの香りは貴重な香料になり、シャネル、コティ、ゲランなど「名作」と呼ばれる数々の香水にも配合されてきました。

スイセンのロゴ

1955年のある日、ゲラン社の工場に、香水「夜間飛行」に使うためのジョンキル香料が届きました。

その年は霜の影響で多くの植物がだめになってしまい、ジョンキルも例外ではなかったため、どうしても必要な300グラムの香料を手に入れるためにかなり苦労しなければなりませんでした。

ジョンキルの瓶は大事におがくずで守られ、ほかの大きな瓶といっしょに納品されました。

ところが、そのときまだ調香師見習いだったジャン-ポール・ゲランは、その小さな瓶の存在に気づかず、梱包箱ごと燃やして捨ててしまいます。


つぎの日、ジョンキル香料がないことがわかり、ジャン-ポールの偉大な祖父ジャック・ゲラン(作品「ルール・ブルー」「ミツコ」「シャリマー」「夜間飛行」など)はかんかんに怒り、失った香料を蘇らせろとジャン-ポールに命じます。


とりかえしのつかないことをしてしまった絶体絶命のジャン-ポール。

そのころはまだ分析機の技術もなく、ジョンキルを再現するには記憶の中の香りを自分で分析するしかありません。

しかも並の「ジョンキル風」香料で祖父が納得するわけもなく、失った「ジョンキル」そのものである必要があります。

ジャン-ポールは自分の鼻と記憶だけを頼りに、ナルシス、バイオレットリーフ、少量のジャスミン、チュベローズ、そのほか合成香料も駆使し、ジョンキルの香りを組み立てていきます。


そうしてできあがった自己流「ジョンキル」を祖父に提出しますが、ジャックはその香りが信じられず、もう1度自分の目の前で同じようにつくってみせるよう言いつけます。

その結果、その驚くべき香りはたしかに孫の手によってつくられたのだとジャックは理解します。

というのもジャン-ポールがつくったその香料は、失ったはずの天然ジョンキルをどこかで奇跡的に発見したのかと思ってしまうくらい、まさに完璧な「ジョンキル」の香りだったのです。


この出来事によってジャックは孫の才能を確信し、ゲラン社の調香師として彼に自分の跡を継がせることを決意します。


その後ジャン-ポール・ゲランは天性の才能をみごと開花させ、「シャマード」「アビ・ルージュ」「サムサラ」など、だれもが知る数々の名香を世に送り出しました。

姿かたち

ルドゥーテの「ジョンキル」
  • 茎の先端に、芳香のある黄色~ヤマブキ色の花を複数個つけます。
  • 花の香りは、Narcissus属のなかでもっとも強いです。
    ワーズワースの詩『To a Snowdrop』にも、ジョンキルの「心奪う香り」が出てきます。
  • 6枚ある花びらも、中央の副花冠も黄色。
    Narcissus属にはほかにも黄色花の品種がありますが、「ジョンキル」という名でよばれるのはNarcissus jonquillaだけです。
  • 濃い緑色の、細長いイグサのような葉。

栽培と収穫

  • 南仏やモロッコで栽培されています。
    栽培はむずかしくて、生産も減ってきています。
  • 花の収穫時期は、3~4月。
    植えてから1年目は、収穫が少ないです。

名前の由来・伝説

  • 「Jonquil/ジョンキル」は、スペイン語で「Junquillo/ジュンキロ」といいます。
  • 「Junquillo」は、イグサ属のラテン名である「Juncus」に由来します。
    これは、ジョンキルの葉のかたちがイグサみたいだから。
  • イグサのような葉をもつスイセンということで、別名「Rush daffodil/ラッシュダッフォディル(イグサスイセン)」とよばれることもあります。