Patchouli
パチュリ
学名 | Pogostemon cablin (Blanco) Benth. |
科名 | シソ科 |
別名 | パチョリ |
原産地 | インドネシア |
主産地 | インドネシア、インド、マレーシア、マダガスカル、セイシェル諸島 |
使用部位 | 葉 |
採油部位 | 乾燥葉 |
採油法 | 水蒸気蒸留 |
採油率 | 2~3% |
性状 | 黄色~暗褐色、粘性あり |
主な成分 | パチュリアルコール、パチュレン、α-ブルネセン、α-グアイエン、セイケレン、アロマデンドレン、β-カリオフィレン、ノルパチュレノール |
香り | 湿った大地や墨汁を想わせる温かいウッディノート。 ハーバル、バルサミック、スモーキーなニュアンスもある。 |
揮発性 | ベースノート |
香り強度 | 中~強い |
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Fragrance 香料
香りの 性質 | 大自然の豊かさを感じるアーシーウッディ。 湿度と温もり、すぐれた持続力を持つ。 |
主な 使用法 | シプレやオリエンタルタイプのベースノート。 香りに力強さや豊かさ、深み、コクを与える。 |
使用量 | 目的によって微量~過剰投入までさまざま。 |
注意 | ─ |
パチュリ精油は葉を水蒸気蒸留することで得られます。
パチュリの蒸留には以下のような特徴があります。
- 原料には乾燥した葉を使う
生の葉にもほんのり香りはありますがそれほど強くなく、乾燥と発酵のプロセスによってパチュリ特有の香りが生じるため、収穫した葉は蒸留前に乾燥させます。 - 蒸留は長い時間をかけて行う
揮発しにくい成分が多く含まれているため、蒸留には比較的長い時間がかかります。 - 蒸留後は数ヵ月間熟成させる
蒸留したての精油は香りが粗くパチュリの複雑なニュアンスがまだ出ていないため、しばらく寝かせます。
パチュリは年月とともに香りが良くなっていく精油です。
時間が経てば経つほど香りの豊かさと深みが増し、芳醇なフルーティノート、チョコレートのような甘いコク、ソフトなまろやかさが出てきます。
また、インドネシア産パチュリがもっとも上質な香りだとされています。
現地で収穫したものを乾燥させて輸入し、フランスなどで蒸留することも行われています。
そのほか、より繊細な香りを得るために精油をさらに蒸留したり、超臨界流体抽出法を使ったり、溶剤抽出でアブソリュートを得たりと、さまざまなかたちのパチュリ香料が作られています。
香りの成り立ち
パチュリ精油の主成分は、全体の30~40%の割合で含まれているパチュリアルコールです。
ただし、わずか0.3~1%含まれているノルパチュレノールという成分が、パチュリの香りにもっとも大きな影響を与えていると考えられています。
- パチュリアルコール(=パチュロール)
土臭さや粉っぽさ、樟脳感のあるパチュリの香り。
そのほか、以下のような成分が含まれています。
- α-グアイエン
スパイシーで土っぽさのあるウッディノート。- ガイアックウッドにも含まれています。
- β-カリオフィレン
ドライで温かみのあるウッディ、スパイシー。
苦みや土のニュアンスもあります。- ブラックペッパー、イランイラン、クローブ、シナモン、キャロットシードなどにも含まれています。
相性のよい香り
- 豊かなベースノートを作るために、ほかのウッディノートとよく組み合わせられます。
- パチュリと同様のアーシー感を持つベチバーは、もっともよく併用される香り。
- パチュリとサンダルウッドを1:1でブレンドすると、まろやかで落ち着いた静けさを演出できます。
- パチュリのスモーキーな墨っぽさを強調したいときは、フランキンセンスをプラス。
- パチュリ多め+オークモスの組み合わせは、華やかなシプレ調のベースノートになります。
- シプレタイプには、さらにベルガモット、ローズ、ラブダナムなどをブレンドします。
- パチュリ+バニラの組み合わせは、オリエンタル調のベースノートとして広く使われています。
- パチュリと相性の良いシトラスノートは、軽すぎず程よくフローラル感もあるベルガモット。
- パチュリに負けない強度がほしいときは、レモングラスを使います。
- ローズ、ゼラニウム、パルマローザなどローズ系の香りは、パチュリの土臭さを抑えて華やかな面を強調します。
- パチュリ+ローズ+ジャスミンの組み合わせは、この上なく華やかな香り。
- ラベンダー、ネロリ、クラリセージなど、リナロール系のフレッシュな香りとも相性が良いです。
ブレンドテクニック
パチュリはウッディノートに分類される香りですが、木材から抽出されるウッディとはひと味違った香調を持っており、さまざまなブレンドで独特の効果を発揮します。
- パチュリが持つ湿気やアーシー感は、栄養が豊富な湿った土、腐敗した木、苔、落ち葉、砂塵など、雄大な自然を感じさせるような効果があります。
- ほかの香りでは出せない深みや豊かさ、官能性を与えるため、オリエンタルやシプレタイプには欠かせません。
- フローラルノートにパチュリを加えると、香りの華やかさと艶が一気にボリュームアップします。
- アンバーノートやバルサミックノートにパチュリを加えると、香りの温もりがさらに深まります。
- ブレンドにくっきりとした強さや奥行き、鮮やかなコントラストがほしいときに少量加えるとよいです。
- 一方で軽く繊細な香りにブレンドするときは、たとえ少量でもパチュリばかりが目立つことになるので、パチュリとなじみのよい香りを一緒に使うなどの工夫が必要。
- 持続力があり、保留剤としてもすぐれています。
使用されている香水
- Tabu/タブー(Dana、1931)
パチュリを10%も配合しているという香水で、ベチバーやオークモスと相まって温かい大地のような雰囲気をかもし出しています。
ふんだんなスパイスや花の香りがブレンドされたオリエンタルフローラル。 - Aromatics Elixir/アロマティック エリクシール(Clinique、1971)
パチュリ、オークモス、ローズで構成されたシプレフローラル。
トップノートにカモミールやレモンバーベナなどアロマティックな香りをたっぷりと使っているのが特徴。 - Angel/エンジェル(Thierry Mugler、1992)
大量のパチュリがチョコレートやキャラメルの香りにコクを与えるユニークなオリエンタルグルマン。
オープニングは、綿あめと熟したフルーツの香り。 - Chance/チャンス(Chanel、2002)
レモンやパイナップルの爽やかな香りではじまり、ジャスミンなどのフローラルから官能的なパチュリへと変化していく、フローラルパチュリの甘い香り。 - Patchouli Intense/パチョリ アンタンス(Nicolai、2009)
パチュリとサンダルウッドのコンビネーションにシナモンを効かせた重厚な香り。
トップは明るくフレッシュなラベンダーとゼラニウム。 - Baie 19/べ 19(Le Labo、2019)
雨が降りはじめたときに漂う香りを表現したフレグランス。
湿気を含んだ大地のようなパチュリ、グリーンノート、ジュニパーなど、自然の神秘を感じられるような構成。 - Patchouli Paris/パチュリ パリ(Guerlain、2024)
主役のパチュリにアルデヒドとムスクを合わせた華やかなフレグランス。
パウダリーなオリス、温かいバニラなども加わり、情熱的なパリの夜の高揚感を表現しています。
その他パチュリを含む香水
「Patchouli Patch/パチュリ パッチ(L’Artisan Parfumeur、2002)」
「Borneo 1834/ボルネオ 1834(Serge Lutens、2005)」
「White Patchouli/ホワイト パチョリ(Tom Ford、2008)」
「Mistral Patchouli/ミストラル パチュリ(Atelier Cologne、2013)」
「Tempo/テンポ(Diptyque、2018)」
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香料としての歴史と活用法
パチュリがヨーロッパで使われるようになったのは19世紀前半ですが、インドやアジアでははるか昔からその香りを有効活用していました。
インドでは、肌着、衣類、リネン類に香りをつけるため、また虫よけのためにも、パチュリの乾燥葉やサシェを一緒に保存する伝統があります。
19世紀にインド産の織物やカシミヤショールをヨーロッパへ輸出する際も、輸送中の虫よけのためにパチュリが活用されました。
そのためヨーロッパに届いたカシミヤショールにはパチュリの香りが染み込んでいましたが、はじめこの魅惑の香りが何なのかは謎に包まれていました。
フランスでは高価なインドショールのニセモノを作る業者が現れましたが、未知の香りまでは再現できなかったため、本物と見分けるポイントはその香りの有無だったといいます。
やがてその香りはパチュリという植物によるものだと判明すると、ニセモノ業者はいっせいにパチュリを輸入しはじめ、自分たちの商品にもパチュリの香りをつけて売るようになりました。
こうしてパチュリはカシミヤショールの香りとして定着していきますが、ポプリやサシェの材料としても人気になり、一般家庭でも広く使われるようになりました。
その後1960~70年代のヨーロッパとアメリカでは、主にヒッピーたちのあいだでパチュリの香りが大流行しました。
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Aromatherapy アロマテラピー
作用 | 鎮静、鎮痙、抗炎症、収れん、消化器系機能調整、神経バランス調整、防虫 |
適用 | 緊張、不安、ストレス、無気力、依存、PMS、皮膚の再成長サポート、食欲を抑える、デオドラント、虫よけ、菌対策 |
注意 | ─ |
パチュリ精油は、アロマテラピーでも幅広く利用されています。
とくに不安定な精神を落ち着かせてバランスをとったり、スキンケアのために使われることが多い精油です。
パチュリの香りが重いと感じるときは、軽やかなシトラス系や華やかなフローラル系精油をほどよくブレンドして使いましょう。
精神のために役立てる
パチュリは極端に鎮静させることも刺激することもなく、バランスの良い安定した精神状態へと導いてくれる精油です。
使う量が少ないと鎮静作用、多いと刺激作用がはたらきやすい傾向があるともいわれます。
- 慢性的な緊張や不安、考えすぎ、心配しすぎな気持ちを落ち着かせてくれます。
- 後悔や妄想などが止まらないときは、ゼラニウム、サンダルウッドをブレンド。
- 考えすぎて疲れた精神を癒やすには、ネロリをブレンド。
- 現実的な感覚や客観的な視点を取り戻すためには、ベルガモット、ベチバーをブレンド。
- フワフワすることのない地に足のついた高揚感は、感覚を鋭敏にして生命力を高めます。
- 創造力と自由な表現力を高めるには、クラリセージ、フランキンセンスをブレンド。
- 自信やチャレンジ精神を呼び起こすには、イランイラン、ローズをブレンド。
- 健康や快適さ、リアルな生活に対するモチベーションを高めるには、オレンジ・スイート、プチグレン、ラベンダーをブレンド。
喜びを求めるエネルギーを目覚めさせる精油
ストレスや精神的負担の多い日々が続くと、いつのまにか純粋な喜びや楽しみは自分とは無縁のものに思えてきます。
プライベートとの切り替えがむずかしい仕事をしていたり、心配事や不安が次々に降りかかってくるような状況にいたりするときに、パチュリの香りは過剰な緊張をひとまずほどき、安定した感覚の中で自分の欲求や喜びに目を向けられるようにサポートしてくれます。
「最近、心から喜びを感じたのはいつだっけ?」と思ったときに使いたい精油です。
身体のために役立てる
- 消化器系の不調には、マンダリン、ブラックペッパーをブレンド。
アロマバスやアロマトリートメントで利用します。 - 食欲を抑えたいときにも役立ちます。
グレープフルーツとブレンドして芳香浴をするとよいです。 - 脚をスッキリさせたいときは、ジュニパーとブレンドしてトリートメント。
- PMSや更年期のトラブルには、カモミール・ローマン、クラリセージ、サンダルウッド、ジャスミン、メリッサ、ローズなどの中から、気分に合うものを選んでブレンド。
美容のために役立てる
パチュリはスキンケアに幅広く使用することができます。
- 収れん作用や抗炎症作用があるため、脂性肌のスキンケアにぴったりです。
- ミルラかフランキンセンスもブレンドするとよいです。
- フケや頭皮のケアなら、シダーウッド、ローズマリー、セージなどをブレンド。
- 皮膚再生をサポートする力も有名です。
- 老化肌、弾力のないゆるんだ肌のケアには、ネロリ、フランキンセンスをブレンド。
- 傷あとのケアには、ラベンダーをブレンド。
- 乾燥肌のスキンケアにも使えます。
- 肌を潤わせてやわらかくするには、ジャスミン、パルマローザをブレンド。
- デオドラントには、コリアンダー、パイン、ベンゾインをブレンド。
その他の使い方
- 衣類やリネン類の虫よけにも使うことができます。
- 脱毛剤の不快臭のマスキングなどに使われることもあります。
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Herb therapy ハーブセラピー
ハーブとしての歴史と伝承
パチュリは、アジアで何世紀にもわたって薬として使用されてきた長い歴史があります。
- マレーシア、インド、中国、日本などで伝統的に使われてきました。
- 消炎作用があるため、皮膚や腸の炎症を抑えるために使用されます。
- 虫に刺されたりヘビに咬まれたりしたときにもよく使用されます。
- 薫香として焚いたり軟膏に加えたりして、病気の蔓延を防ぐためにも使われました。
- 漢方ではパチュリの全草を乾燥させたものを「霍香/カッコウ」と呼びます。
- 消化器系の不調、熱、痛みなどに用いられます。
- 乾燥葉は虫よけとしても長く利用されています。
Cooking 料理
Gardening 園芸
種類 | 多年草 |
背丈 | ~1m |
環境 | 暖かい気候と湿気、栄養豊富な土壌 |
STORY
パチュリがヨーロッパに伝搬されたのは19世紀前半。
インドのカシミヤショールをヨーロッパに輸出する際に、運搬中の虫よけ対策としてパチュリの乾燥葉を入れたところ、ショールに移ったそのエキゾチックな香りが人気になりました。
(パチュリの香りつきカシミヤショールを最初にヨーロッパに持ち込んだのはナポレオンという説もあり)
パチュリは1837年、フランシスコ・マヌエル・ブランコ(スペインの植物学者)によって「Mentha cablin」と命名されます。
この学名は後に「Pogostemon cablin」に改められますが、それまで正体不明だった植物の謎が明かされたことで、西洋でもパチュリの名が広く知れ渡るようになりました。
姿かたち
- 60cm程度~1m以上に生育することもあります。
- 四角形で硬い茎にはこまかい毛が生えています。
上のほうで分岐し、大きな葉をつけます。 - 葉の長さは10cm、幅は6cmほど。
縁がギザギザで表も裏も毛が生えており、ほのかな香りがします。 - 花は晩秋~冬に開花します。
穂状の花で、色は白みを帯びた淡い紫色。
栽培と収穫
- 熱帯または亜熱帯気候の国々で、主に精油を採るために栽培されています。
- 暖かくて湿気の多い気候と、栄養分が豊富な肥えた土壌を好みます。
- 収穫は、植えてから半年ほど経って草丈が60cmくらいになったら行われます。
- 上部の若い葉がたくさんあるところを刈り取りますが、収穫したてはあまり香りがありません。
- 収穫後に乾燥させ、発酵させるとパチュリ特有の香りが強くなります。
- 乾燥葉は茎からはずし、精油抽出のために水蒸気蒸留します。
名前の由来・伝説
- 「Patchouli/パチュリ」という名前は、タミル語の「patchai(緑)」「ellai(葉)」からきています。
- 学名の「Pogostemon」は、ギリシャ語の「pogon(ひげ)」「stemon(雄しべ)」が語源になっています。
花の雄しべに毛が生えているため。
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