Vetiver
ベチバー
学名 | ・Chrysopogon zizanioides (L.) Roberty ・syn. Vetiveria zizanioides (L.) Nash |
科名 | イネ科 |
別名 | クス、ベチベルソウ |
原産地 | インド |
主産地 | ハイチ、インドネシア、レユニオン |
使用部位 | 根 |
採油部位 | 根 |
採油法 | 水蒸気蒸留 |
採油率 | 1~1.5% |
性状 | 淡褐色~褐色、粘りけがある |
主な成分 | クシモール、イソバレンセノール、ベチセリネノール、β-ベチボン、α-ベチボン、オイデスマ-6-エン-11-オール、クシノール、クシモン、クシアン-2-オール |
香り | 深みのある重厚なウッディアーシー。 グリーン、バルサミック、スモーキーなニュアンスもある。 |
揮発性 | ベースノート |
香り強度 | 中~強い |
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Fragrance 香料
香りの 性質 | 土の温かさや湿り気を感じるようなアーシーでウッディな香り。 揮発しにくく、どっしりとした印象を与える。 |
主な 使用法 | あらゆる香調の保留剤。 重厚感のあるウッディベース。 |
使用量 | パワフルな香りなので、作りたい香りのイメージに合わせて少量ずつ足していく。 |
注意 | ─ |
ベチバー精油は、乾燥させた根を水蒸気蒸留することで得られます。
抽出方法や収率は産地による違いがありますが、一般的な手順としては、まず根をきれいに洗い、乾燥させ、こまかく刻んでから蒸留器に入れます。
蒸発しにくい成分を多く含むため、蒸留には長い時間(12~36時間)がかかります。
蒸留したての精油には土臭さや青臭さがあり、これを落ち着かせるために半年間ほど熟成させます。
ベチバーは、時間が経つほどに香りが良くなっていく精油です。
数年経過したベチバー精油は芳醇さ、まろやかさ、深みなどが増し、より豊かなウッディノートを楽しめます。
ベチバー精油の香りは、産地によっても異なります。
ベチバー精油はさまざまな地域で生産されていますが、香料用ベチバーの主な産地は、レユニオン、ハイチ、インドネシアです。
ベチバー精油の産地
- レユニオン産
「ブルボンベチバー」と呼ばれる最高品質のベチバー精油。
希少で高価なため、手に入りにくい。 - ハイチ産
ブルボンベチバーと同じく、フローラルな柔らかい雰囲気のあるベチバー精油。
品質もよくブルボンより安いため、もっとも人気。 - インドネシア(ジャワ)産
スモーキーな香りが特徴のベチバー精油。
上記2種に比べて収率が高い。
精油のほかにも、溶剤抽出したベチバーアブソリュート(レジノイドと呼ばれることもある)も作られています。
香りの成り立ち
ベチバー精油の香りは、150種以上の成分が複雑に混ざり合ってできています。
生産地による違いもありますが、主成分としてはクシモール、イソバレンセノール、β-ベチボン、α-ベチボンなどが挙げられます。
これらの成分がベチバーのウッディ、アーシーな香調を作っていますが、とくにクシモールはベチバー特有の温かくやわらかい香りを持っています。
相性のよい香り
- 柑橘精油はどれもよく合いますが、特別相性が良いのはグレープフルーツ。
甘さのない爽やかな香りを作りたいときに便利な組み合わせ。 - ベチバーはさまざまな香調に使うことができます。
- フゼアタイプには、ラベンダー、ゼラニウムかローズ、トンカビーンズなどを合わせます。
- シプレタイプには、ベルガモット、ローズかジャスミン、オークモス、ラブダナムなどを合わせます。
- オリエンタルタイプには、ベルガモット、ローズかジャスミン、バニラ、パチュリなどを合わせます。
- ベチバーを中心に、サンダルウッドやパチュリなどいろいろなウッディノートを組み合わせることで、深みのあるベースノートができます。
- 香りを少しミステリアスに傾けたいときは、フランキンセンスかミルラをプラス。
- ジンジャーとよく馴染むので、少し足すとベチバーに自然なスパイシー感が出ます。
- イランイランはベチバーの青っぽさを抑え、ほかの香りともなじみやすくしてくれます。
- バニラやベンゾインを足すと、ベチバーのコクのある甘さを強調できます。
ブレンドテクニック
- 持続力があるので、保留剤として幅広く使うことができます。
- どっしりとした強さのあるウッディノートは、あらゆる香調に落ち着きや重厚感を与えます。
- とくにフゼアタイプやメンズフレグランスには多用されます。
- シプレ、オリエンタルなど華やかな香調にも落ち着いた重低音を加えます。
- フェミニンなフローラル調に少し加えることで、香りを洗練させます。
ベースノートにベチバーを使ったフローラルブーケの香水は無限にあります。 - シトラスノートと相性が良いので、コロン調の保留剤としてごく少量加えても良いです。
- シトラスフローラル、フレッシュフローラルなどの明るい香りにベチバーをさり気なく加えると、ベチバーは主張せず全体をやさしく包み込み、やわらかく心地よく香らせることができます。
- 軽やかさを重視したいブレンドには、入れすぎないように注意しましょう。
合成香料
ベチバーの天然精油には、一般的に好まれにくい土っぽいノートがあります。
これがベチバー香を扱いにくくしているため、その部分を含まない「べチベロール」や「酢酸ベチベリル」がベチバー香料として利用されています。
この2つはベチバー精油から製造されます。
- べチベロール
クシモール、イソバレンセノールなど、ベチバー精油に含まれるセスキテルペンアルコールの混合物。
青臭さや土臭さのないウッディなベチバーの香り。 - 酢酸ベチベリル
ベチバー精油に含まれるセスキテルペンアルコールをアセチル化したもの。
やわらかいウッディノートとして香水によく使われている重要な香料です。
使用されている香水
1957~59年にかけて、「ベチバー」という名のメンズフレグランスが次々に発売されました。
- Vetiver/ベチバー(Carven、1957)
シトラスとラベンダーなどのアロマティックなトップノートに、ブルボンとジャワのベチバーが組み合わされています。 - Vetiver/ベチバー(Guerlain、1959)
ベチバーとタバコ、レザー、温かいスパイスを組み合わせた、とても柔らかくエレガントな香り。 - Vetyver/ベチバー(Givenchy、1959)
ベルガモットとコリアンダーのピリっと軽やかなノートに、ベチバーとサンダルウッドのベースノート。
そのほか、ベチバーはあらゆる香水に幅広く配合されています。
- Aromatics Elixir/アロマティック エリクシール(Clinique、1971)
カモミール、クラリセージ、レモンバーベナなどのアロマティックノートで始まり、ホワイトフローラルが華やかに香ったあと、オークモスやベチバーのアーシーノートへ続くシプレフレグランス。 - Vetiver Tonka/ベチバー トンカ(Hermès、2004)
ベチバーのワイルドな香りにトンカビーンズ、ナッツ、キャラメル、プラリネなど甘くなめらかなグルマンノートを合わせることで、やわらかい印象になっています。 - Sel de Vetiver/セル ド ベティベル(The Different Company、2006)
ブルボンとハイチのベチバー、グレープフルーツ、イランイラン、シーソルトの組み合わせ。
海や太陽を想わせる明るい香り。 - Vetyverio/ヴェチヴェリオ(Diptyque、2010)
ハイチとジャワのベチバーに、グレープフルーツの爽やかシトラス、ローズとムスクの華やかフローラルをブレンド。 - Tacit/タシット(Aesop、2015)
ユズを中心とした苦みのあるシトラス、鮮烈なバジル、クローブとアンバーを効かせたベチバーの組み合わせ。
その他ベチバーを含む香水
「Vetyver/ベチバー(Lanvin、1964)」
「Vétiver d’Hiver/ベチバー ディベール(Giorgio Armani、2008)」
「Grey Vetiver/グレイ ベチバー(Tom Ford、2009)」
「Woody Perfecto 107/ウッディ パーフェクト(Parle Moi de Parfum、2016)」
「Vetiver & Golden Vanilla/ベチバー & ゴールデン バニラ(Jo Malone London、2020)」
「Nerolia Vetiver/ネロリア ベチバー(Guerlain、2022)」
「Vetiver/ベティベール(Santa Maria Novella)」
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香料としての歴史と活用法
ベチバーの根が持つ美しい香りは、古代より高く評価されてきました。
原産地のインドでは宗教儀式に使ったり花嫁の練り香に使ったりもしていました。
ベチバーの根で編んだすだれは、水をかけておくと風が吹いたときにその芳香が心地よく広がるため、現在でも広く利用されています。
同じように涼みながら香りを楽しめるベチバーのうちわも、南~東南アジアでよく作られています。
ほかにも土製の水差しをベチバーでくるみ、冷たい水が少しずつベチバーに沁み込んで香り高い蒸気を発散させる仕組みなど、さまざまなアイディアでベチバーの香りが活用されています。
またインドでは、乾燥した根でサシェを作り、リネンやモスリンにはさんで香りをつけることもよく行われていました。
これは国外に衣類を輸出するときの虫よけ対策にもなっていたため、輸送先のヨーロッパでは「モスリン=ベチバーの香り」というイメージが付きました。
18~19世紀はじめのイギリスで、ハンカチにベチバーの香りをつけるのが流行しました。
19世紀中旬には「Mousseline des Indes(インドのモスリン)」という香水が発売され、これはベチバー香のモスリンがテーマで、ベチバー、サンダルウッド、ローズ、タイム、ベンゾインなどが配合されていました。
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Aromatherapy アロマテラピー
作用 | 鎮静、鎮痙、高揚、抗炎症、抗リウマチ、消化器系機能調整、消臭、防虫 |
適用 | ストレス、緊張、無気力、集中力がない、眠れない、筋肉ケア、スキンケア、巡りサポート、虫よけ |
注意 | ─ |
ベチバー精油はアロマテラピーでも頻繁に使用されます。
大地のような香りは安心感を与えますが、ほかの香りをかき消してしまわないように少量を使いましょう。
柑橘や花の香りなどをブレンドすると使いやすくなります。
精神のために役立てる
ベチバーは「静寂の精油」などと呼ばれることもあるほど、鎮静作用にすぐれた精油です。
- とくにストレスと緊張に対して素晴らしいはたらきをします。
アロマバスやトリートメントに使うとよいです。- 緊張が続いて眠れないときは、サンダルウッド、ラベンダーをブレンド。
- 無意識のうちに感じてしまう不安、緊張には、ゼラニウム、クラリセージをブレンド。
- 小さなことにもいちいちイライラして仕方がないときは、レモン、フランキンセンスをブレンド。
- ヒートアップしたものをクールダウンさせ、地に足をつけた安定感を維持します。
- コントロールできない焦りや恐怖が常に付きまとっているときは、イランイラン、オレンジ・スイートをブレンド。
- 心の中で自分を否定する声が静まらないときは、ローズ、カルダモンをブレンド。
- 思い込みや現実逃避などの妄想から引き戻すには、ジンジャー、サンダルウッドをブレンド。
- 心に栄養を与え、静かに充電させます。
- なんだか疲れたな…と思ったら、ネロリとブレンドしてリラックスタイムに使いましょう。
- バランスのとれた心でおだやかな高揚感を楽しむなら、グレープフルーツ、ベルガモット、ジャスミン、クラリセージ、プチグレンなどをブレンド。
駆り立てられる気持ちを落ち着かせる精油
やってもやってもまだ足りない、どれだけ追求してもまだ完璧じゃない…など、休む暇もなく何かしていないと気がすまないようなとき。
それ自体はとくに問題ないとしても、追い立てられるような意識があまりにも強いと、自分の中にある自然な欲求(お腹すいた、疲れた、眠りたいなど)にもだんだん気づかなくなってしまいます。
そんなときにベチバーは、乾いた大地に水が染み込むようにやさしく心を満たし、雑多な現実にも目を向けつつ物事により集中して取り組めるようにサポートしてくれます。
身体のために役立てる
- 心身ともにクタクタになったときのリフレッシュに。
- クラリセージ、マージョラム・スイート、メリッサ、ローズマリーなどをブレンドします。
- 食欲がないときは、オレンジ・スイート、ジュニパーもプラス。
- 血液の流れをサポートし、筋肉や関節のケアにも役立ちます。
- スポーツ後のトリートメントには、ラベンダー、ローズマリーをブレンド。
- PMSや更年期にも、ほかの精油と組み合わせて使うことができます。
- PMSには、クラリセージ、ゼラニウム、ヤロウなどをブレンド。
- 更年期には、クラリセージ、サイプレス、ネロリ、サンダルウッドなどをブレンド。
美容のために役立てる
- 脂性肌のデイリーケアに役立ちます。
- 皮脂のバランスを整えるには、イランイラン、ゼラニウム、シダーウッドをブレンド。
- 炎症を抑えるには、ラベンダーもブレンド。
- 老化肌や乾燥肌には、ネロリ、サンダルウッドをブレンド。
- 足を清潔に保つためのフットスプレーやフットバスには、パルマローザ、サンダルウッドをブレンド。
その他の使い方
- ベチバーの「熱を冷ます」性質から、インドなどでは夏の入浴時にバスタブに入れたり、スキンオイルを作って肌に塗ったりして暑さをやわらげます。
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Herb therapy ハーブセラピー
ハーブとしての歴史と伝承
ベチバーは主に南アジア、東南アジア、西アフリカで、薬として伝統的に利用されてきました。
ベチバーの根は弱った心身を元気づけたり、緊張をほぐしたり、熱を冷まして炎症や痛みをやわらげたりするために使われてきました。
宗教儀式やお祓いなどにもしばしば使われました。
ハイチでは、エルズリー(ブードゥー教の女神)に捧げられる植物の1つであり、ほかの植物と一緒に恋の魔術にも使われるそうです。
Cooking 料理
ベチバーは、インドでは「Khus syrup/クスシロップ」を作るのに使われます。
これはベチバーの根を使った香り高いシロップで、冷たくて爽やかなドリンク、デザートなどに使われます。
Gardening 園芸
種類 | 多年草 |
背丈 | 1.5~2mまで生長する |
環境 | 熱帯~亜熱帯気候 |
STORY
インドでは古くからベチバーの根をさまざまに利用してきました。
乾燥させた根でリネンやモスリンに香りをつけたり、虫よけにしたり、サシェを作ったりなど。
その中でもとくに何世紀にもわたって継承されてきたのは、ベチバーの根で編んだすだれです。
これを暑い陽射しを避けるためのブラインドとして使い、水で濡らしておけば、風が吹いたときに冷たい空気とベチバーの芳香で家の中がいっぱいになります。
この方法は一般家庭だけではなく、寺院や古代の王宮でも行われていました。
レユニオン島(当時はブルボン島)にベチバーが持ち込まれたのは1770年頃。
しばらくは屋根ぶき用のワラやホウキの材料として使われていましたが、その後「ブルボン種ベチバー」として香水業界で有名になります。
現在では人手不足や干ばつなどの理由で生産者は減り、ブルボン種のベチバー精油は入手困難なものになりました。
それでも最高品質のベチバーとして、今なお名声を保っています。
*レユニオン島観光局のベチバー紹介ページ(フランス語) → Les mystères du vétiver
姿かたち
- 地上部の草は細く長く、しなやかで丈夫。
1.5~2mほどに生長します。 - たくさん集まって大きな株をつくります。
- 強い芳香を持つのは、根の部分。
薄い黄色~赤褐色の縮れた根は、地下でかたまりを形成します。 - 根は下に向かってまっすぐ伸び、地下2~4mの深さにまで達します。
- 開花時期は10月頃で、花色はブラウン寄りのくすんだ紫色。
栽培と収穫
- 熱帯から亜熱帯地域に生育しています。
精油用ベチバーは主に栽培種ですが、インド、スリランカ、マレーシアなどでは野生もしています。 - 収穫は手作業で行われます。
- 採油用には、2~3年目の根を収穫します。
様々な用途
- インドやインドネシアでは、ベチバーの根を編んでさまざまなものが作られます。
- すだれをはじめ、バスケット、うちわ、帽子など。
これらは虫よけと暑さよけを兼ね備えており、なおかつ香りも楽しめるアイテムです。 - 家に飾るためのミニチュア寺院など、いろいろな工芸品も作られています。
- すだれをはじめ、バスケット、うちわ、帽子など。
- ベチバーの根は地中深くにしっかり張って広範囲に広がるため、土壌を侵食から守るはたらきをします。
傾斜地の土砂流出防止などに、古くから利用されてきました。
名前の由来・伝説
- 「Vetiver/ベチバー」という名前は、タミール語の「vettiver(掘り起こした根)」からきています。
- 地域によってさまざまな名前で呼ばれています。
たとえばインドでは「Khus/クス」、インドネシアでは「Akar wangi/アカール・ワンギ」。
どちらも「芳香のある根」という意味です。 - 英語の綴りは「Vetiver」、フランス語は「Vetyver」
近縁種・間違いやすい品種
ベチバーと同じイネ科の香料植物には、以下のようなものがあります。
- レモングラス/Cymbopogon citratus
- パルマローザ/Cymbopogon martini
- シトロネラ/Cymbopogon nardus
これらはすべて地上部の見た目はそっくりですが、上記3種は地上部が利用されるのに対し、ベチバーは地下の根が採油原料になります。
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